10月〜12月

10 11
「庭と出会い」 「新しい薔薇」


2002.11.5.「新しい薔薇」

青い青い空が広がる。風はもう木枯らしをよそおって。雲が速い。日本海側は、しぐれているらしい。今年は寒くなるのが早いような気がする。
三連休の最終日、忙しく庭仕事に明け暮れた。子どもの用事で毎週末が過ぎていったこの秋、庭仕事に没頭できたのは久しぶり。植え付けたのは、薔薇苗たち。春に手に入れて大切に鉢で育ててきた。紫燕飛舞は、アイスバーグの隣、背高く伸びた枝の先に咲いた花を出窓からも眺められる場所に。スーベニール・ド・ドクトールジャメインは、南側のフェンスの白薔薇を背景に咲くように、その手前に。マダムピエールオジェは、トレリスに沿わせて。そして、この秋新しく庭に連れて来た大苗たち。ひらひらと乱れた半八重の白いフロリバンダ、エルフを大きく育ったマガリの足元に。その隣でやはり大きく育ったアイスバーグの足元には、一重のやさしいピンクの薔薇ローゼンライゲンと、美しい白薔薇サマースノーを。どちらもフロリバンダ、切り戻せばそう大きくはならないだろう。

薔薇とともに咲かせるために、今までボーダーには、いろいろな草花を植えてきた。ときにはその草花の方が旺盛に茂って薔薇の生育を妨げてしまうこともあったけれど、混じり合って咲く薔薇と草花は自然な美しさがあって。でも、このごろ薔薇の足もとに少しは土が見えていてもいいと思えるようになってきた。そこに、早春に毎年咲く小さな球根を植えたりクリスマスローズを植えたりしよう。クリスマスローズは、とても薔薇と相性がいいような気がしている。夏は、薔薇の葉陰になって、暑さをしのぎ、薔薇が葉を落とす冬から早春にかけては、美しい花を付ける。常緑の葉は、一年中素晴らしいグランドカバーになる。

薔薇だけのボーダーは、いくら薔薇がたっぷり咲いても単調なものだ。青や白の花が薔薇とともに咲いている姿が理想だが、ただ狭いだけでなく年々薔薇が増えていくボーダーでは、薔薇と草花を一緒に育てるのは難しい。グランドカバー的に常緑の葉物をボーダーには植えておくこととして、草花は、コンテナで育てて薔薇のピークに合わせて配置してもいいだろう。

種から育てたルピナスの苗を8号鉢にたっぷりと植えた。まだ小さいデルフィニュームの苗も、年内には鉢に植えて、日をたっぷり浴びさせ春までに大きく育てる。パンジーもビオラもチューリップもみんなコンテナに植えた。薔薇のボーダーに植えた春の草花苗は、ジギタリスとモウズイカだけ。それと、ムスカリなどの球根を少し。

一日の庭仕事の仕上げ、勝手口から出てすぐの一坪菜園に、赤紫の花が咲く絹さやを少しと冬取りの油菜を蒔いた。ここに薔薇は植えられない。たとえどんな素敵な薔薇に出会っても。



2002.10.20 「庭と出会い」

冷たい夜の雨がようやく上がった早朝。電話のベルが鳴る。「今郵便局前にいます。」「すぐにお迎えに行きますので、お待ちください。」慌てて玄関を飛び出した。

約束の場所には、すらりとした美しい女性。一目でその人とわかった。「おはようございます。夕べは雨でしたから、もしかしたらおいでになれないかと思いましたが。」「雨上がりの方が、好きなんですよ。」まだ、空は雲が厚い。こんな薄暗い中でも撮影できるのだろうか。早朝の人気の無い道を我が家まで案内する。玄関にお通しする前にまず庭へ。夕べの雨で重く頭を垂れた薔薇たち。秋薔薇と言ってもぽつりぽつりと咲いているだけ。こんな状態で、満足に撮れる薔薇はあるのだろうか。でも花好き同士、初対面なのに薔薇の話はどんどん弾んで。

一通り庭を巡ったあともなお庭で話し込んでいると、うちの中から母。「コーヒーが入りましたよ。」まだ時計は6時を回ったばかり、ひとまず家の中でもう少し明るくなるのを待つことになった。
訪れた人の書いた本を眺めながら、薔薇の話はますます盛り上がっていく。その本を教科書のように、薔薇を選んだこと、そしてまだ見ぬ英国の薔薇、そして庭の話。その人の本に出会わなかったら、もしかしたら今の私の庭の傾向はまた違ったものになっていたかもしれない。それほど影響を受けた。センセーショナルな本だった。なんというめぐり合わせだろう。その方に実際にお会いし、そして、こんな風にお話できるなんて。

夢中になって話込むうちにやがて空は明るくなっていた。外に出ていよいよ撮影。まずは、ストロベリーアイス。昨日まであんなに綺麗だったのに、雨で痛んで花首を垂れている。その人は、ファインダーを覗きながら、微風がおさまるのをじっと待つ。傍らでレフ板を持つ私。風がおさまったほんの一瞬を捉えて、シャッターの音が庭に響く。その人が今何を捉えようとしているのかが少し見えてきたような気がした。次は、マルメゾン。まだ開きかけの蕾にその人がふうーっと息を吹きかけると魔法のように花が開いた。背景に気を配りながら、慎重に角度を選んで撮影。そして、スノーグース。たっぷりと咲いた一枝を撮影しやすいところまでひっぱる。「綺麗だから、たくさん撮りたくなる。」とその人。雫がとても美しいらしい。ファインダーの中にはどんな画像が映っているのだろう。
一呼吸あって、最後に彼女が選んだのは、ルイ14世だった。ふっくらした、黒赤の蕾。思いっきりレンズを寄せてのマクロ撮影。「覗いてみますか?」レンズの向こうには、雫を含んでゴージャスにたたずむルイ14世がいた。息を呑む美しさとはこのこと。写真を撮るとは、その人の感性を写す作業なのだ。

「また春に来ますね。」そんな約束をしてくださった。一日の始まりのほんの数時間だったけれど、なんて楽しいひとときだったのだろう。今朝、私の庭は、こんな出会いの場となった。

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