B誌掲載裏話V

B誌2001年秋号で 、私の投稿を掲載してくださいました。
誌上では要約となりましたが、 記念に投稿の全文をここに記しておきたいと思います。
無農薬栽培、試行錯誤の途中経過をお読みいただければ幸いです。

BISES編集部様

 夕方の水やりが、かかせない季節となりました。
 5月には、ビズ2001夏号を送っていただきありがとうございました。「東洋の知恵でバラを育てる」何度も読み返し、感銘をあらたにしています。梶みゆきさんの真摯な無農薬栽培に対する取り組みの記録からは、学ぶことが多いです。
 この記事に接したことをきっかけに、今日は無農薬栽培に関する私の庭での成果についてもご報告したくてお便りいたしました。
 
 私が、バラを育て始めたのは、今から8年ほど前。HTのメリナという赤バラがファーストローズでした。それは、郊外に小さな家を建て今までやったこともなかった庭弄りを始めたばかりのころ。立ち寄った園芸店で、3才だった息子が赤いバラの苗木が欲しいと言ったので、バラなんて手がかかるもの、育つわけはないと思いながらも買って帰ったのがきっかけでした。
 その育つはずがないと思ったバラがやがて小さな蕾を付けました。園芸書片手の手探りの栽培でしたが、大きな赤い花を咲かせたのです。ただ、開花直前にアブラムシに悩まされ、株もとにオルトランを撒きました。できるだけ薬は使いたくなかったのですが、びっしりと付いたアブラムシには、それしか方法を考え付かなかったのです。バラは次々と花を咲かせ、気をよくした私は、次々とバラの苗を買い求めるようになりました。
ちょうどそのころです。BISESで「バラの園」を夢見ての記事に出会ったのは。そこで紹介されていた無農薬でのバラ栽培は、私の理想そのものでした。早速、オルトランを撒くことをやめ、完全無農薬でのバラ栽培への挑戦が始まったのです。
 まず、木酢液と有機肥料(骨粉、草木灰、油粕など)による栽培を試みました。アブラムシ、うどんこ病と春先によくでる病害虫には木酢液は効果を発揮しました。有機肥料は、土を肥やし、ミミズが増えました。しかし、春の華々しい開花の後には、じきに黒点病で葉を失い、秋の開花はさびしいものでした。
 シュートの出も年々悪くなり、限界を感じるようになったころ、梶みゆきさんの著書である「オールドローズガーデン」に出会いました。そして、そこで紹介されていた生ゴミ堆肥作りに挑戦することを思い立ったのです。堆肥の作り方については、独自に本でも勉強し、我が家に合ったやり方を工夫してみました。まず、台所から出た生ゴミを小さ目の密封できる容器に醗酵促進剤や米ぬかといっしょに1ヶ月ほど漬け込みます。容器は3個ほど用意しておくと、ちょうど1ヶ月でいっぱいになるので便利です。その漬け込んだ生ゴミは、決して悪臭はせず、お漬物のような酸っぱい臭いがします。これが1次醗酵です。2次醗酵には45リットルのポリバケツの底に穴をキリで数ヶ所開け、水きりができるようにしておいたものを使います。この容器の中に、古土と生ゴミをサンドイッチ状に重ねていくのです。3ヶ月ほどこのまま置いておくと、生ゴミはすっかり真っ黒な土になります。まず手始めにコンテナの草花に使ってみたところ、それまで悩まされていたアブラムシが全く付かず、旺盛に生育するのに驚かされました。そこで、恐る恐るバラにも施してみたところ、シュートの出もよくなり、株の勢いが回復してきたのです。ミミズの数も飛躍的に増えました。春の花時までは、全くと言っていいほど病害虫に悩まされなくなりました。最近では、堆肥の材料にも配慮し、バラ用には生ゴミとカニガラ・牛糞を漬けこんだ物を用意しています。
 生ゴミ堆肥は、肥効がたいへん高い堆肥です。施しすぎると繁茂のし過ぎを招き、かえって良くないということも経験から学びました。今では、冬と夏の年2回のみ与えるようにしています。また、生ゴミ堆肥だけでは窒素分に傾きがちな肥料のバランスをとるために骨粉や草木灰もいっしょに与えています。
 では、どうして、生ゴミ堆肥がこんなにも効果的なのでしょうか?それは、含まれている肥料分だけのせいではないということにだんだん思いが及んでいきました。土壌には、数え切れないほどの有用な微生物が棲んでいます。その微生物を劇的に増やし、土そのものを肥やす手助けを生ゴミ堆肥はしているのでないかと思い始めたのです。それは、HPを運営していて、たくさんの無農薬でバラを育てようとしてらっしゃる方々との交流を通して気付かされたことです。そして「現代農業」を定期購読するようになってますます確信がわきました。
 最近では、この生ゴミ堆肥のほかに米ぬかを定期的に庭土に撒くという試みを始めています。米ぬかは、微生物の餌となり、土ごと醗酵させ、劇的に土を肥やしていくという記事を「現代農業」で読んだのがきっかけです。今のところ米ぬかを撒いた土は、たいへん弾力に富むようになり、団粒化が目で見てわかるほどに進んでいます。バラの生育も順調で、黒点が今までの年よりもおとなしいような気がするのですが、まだまだ実験段階なので確信をもったことを言える段階ではありません。おそらく年単位で観察を続けていかなければならないでしょう。
 生ゴミ堆肥のほかにもうひとつ、無農薬栽培の成果としてあげておきたいのは、庭に集まってくるようになった虫や鳥達のことです。無農薬でバラを育てていると、まるで虫を養っているのではないかと錯覚するほど、バラをおめあてにたくさんの虫たちが集まってきます。そしてその虫をねらって天敵の虫たちや鳥たちが集まってくるのです。始めは、どれが益虫でどれが害虫か全く区別がつかない状態でした。しかし、虫たちの生態について知るうちに、だんだん小さな庭にある生態系に深い感動と安らぎを覚えるようになったのです。"無農薬で庭を造るというのは、小さな生態系を造ること"だったのだと私は庭に教えてもらったのだと感じています。
 私の庭では、毎年決まって春にカマキリが産声をあげ、シジュウカラが巣箱で子育てをします。夏には、小さなアシナガバチが勤勉に巣作りをします。そんな無数とも言える天敵達がバラに大きなダメージを与えない程度に害虫たちを糧にして生きているのです。そういった生き物達の営みそのものに私もガーデニングを通して参加しているのだといつのまにか認識するようになりました。庭は、バラと虫たちと私の共同作業の場なのです。
 この春、私は意識的に木酢液の散布を控えました。できることなら、土の力を高めることで、木酢液などの保護液の効果に頼らずともバラが元気に生育できるようにしたい、化学農薬をただ高価な漢方薬に置き換える"無農薬栽培"というのではなしに・・・微生物と、虫や鳥たちを庭に呼び入れ、庭があたかも自然の一部であるかのように、という思いからです。結果として、去年植え付けた若い株を中心に、うどんこ病の発生をみました。今は、週1回のペースで、梶さんの木酢レシピを参考に散布を続けていますが。夢はいつか実現するでしょうか。

 長々と書いてまいりました。お付き合いいただき本当にありがとうございます。貴誌との出会いをきっかけに、こんな道を歩んでいます。
 同封いたしましたのは、今年のバラの写真です。来年は、新しく壁に導入したバラが開花し、また違った景観を呈することと思います。バラの庭での使い方も目下テーマのひとつです。

 ナチュラルな庭造りを常にリードする貴誌のますますのご発展をお祈りして。

                                       乱文にて失礼いたします。

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