4月〜6月

最初のバラ 薔薇への想い


薔薇への想い」 2003.6.16

 雨の季節の始まり。重くどんよりとした雲が強い日差しを遮って、湿度は高いが強烈な暑さと乾きからたおやかなアジサイの花弁を守ってくれている。

 季節の変わり目、ちょうど今が米ぬかの散布の適期だ。いつもは、ジョーロにひとつかみの米ぬかを入れて薄めに撒くのだけれど、この週末は、手づかみでばさばさ、庭全体で5キロ近くの米ぬかを撒いてみた。撒いたあとは、ホースで水をかけ、よく土となじませておく。季節の変わり目は、土の中の微生物の種類の変わり目。気温が高くなるちょうど今ごろからは、土を団粒化させる菌が働くようになる。この菌を米ぬかで勢いづけてやるのだ。

 薔薇の季節に切った花柄、これも薔薇のボーダーの表面に短く切ってそのまま撒いている。かさかさに乾いて形が無くなりかけているところに米ぬかを撒くと、さらに分解が進む。去年から本格的に始めた土ごと発酵。昨夏から薔薇の剪定枝を撒き始めたイングリッシュローズのボーダーは、今年はほとんど黒点が出ずにいて一番元気がいい。シュートのあがりも好調だ。この冬から土ごと発酵を始めたフロリバンダを中心としたボーダーでは、アイスバーグから黒点が出た。その周りのこの冬植えたばかりの小さな株は、ことごとく葉を落としてしまった。苗が若いからだろう。古株のアイスバーグは、それでも丸裸になることは無く、新葉をどんどんたくわえているが。土ごと発酵の成果を見るには、半年・一年という時間が必要ということを改めて知ったような気がして。

 今年は、ほとんど保護液を撒かずに、週一の「米ぬか+バイオゴールドを溶かした液肥+木酢液」の土壌散布のみで通している。保護液は、花の直前に2〜3回、アイスバーグの黒点と、ゾウムシ対策にニームオイルやアグリクール、碧露などを撒いたくらい。土壌散布だけだと、水遣りがわりにできるので、とてもラクだ。週に一度くらいなら、仕事を持っていてもさほど負担に感じない。こうなってくるとどんどん薔薇を増やしたくなってしまう。夏にも葉を保ち、ラクに管理できるのなら、無農薬でも薔薇をメインにした庭を考えることは夢ではない。

 薔薇のシーズンを終えて、久しぶりに訪れた近くのナーサリー。そこで、思わぬ人に再会した。去年の秋、私の庭に写真を撮りに来てくださったS水さん。今年の春もきっととお約束をしたものの、果たせないでいた。偶然のめぐり合わせを喜びながら、薔薇の話に文字通り花が咲く。ナーサリーには、小淵沢から届いたばかりの花つきの苗がびっしり並ぶ。ひとつひとつ手にとって香りを確かめ、枝ぶりや樹形、花つきなどをナーサリーの奥様に聞いて。お話も弾んだが、その中で気が付くとお互いに、5本の苗を抱えていた。その中で、マダム プランティエというアルバローズは、S水さんとのお話から選んだもの。今年は、白薔薇をとくに吟味されたとか。マダムハーディーをさらに繊細に優雅に仕立てたようなその姿に私も思わず一目惚れしてしまった。おそろの苗は、もうひとつバフビューティー。繊細にうつろっていく花色が美しい。私はすでに一本植えているのだが、今ひとつ元気が無い。リベンジである。とりあえず鉢で育て、植え場所をじっくりと考えよう。マダム プランティエは、バタースコッチのアーチのわきのトレリスに今年手に入れたセリーヌ フォーレスティエとともにからませよう。素敵な出会いの思い出とともに、2年後、3年後の庭への想いが高鳴る。

 珍しく平日に休みがとれた火曜日、日本橋の屋上ガーデンに行ってみた。声をかけてくださったのは、尊敬する薔薇栽培の専門家、A島さん。たくさんお話をさせていただいた。私のHPを見てくださっているとおっしゃり、米ぬか利用の薔薇への応用について評価してくださったのが何よりも嬉しい。
 来シーズン日本に入ってくるというイングリッシュローズも数鉢見せてくださった。以前までのイメージと違って、葉の形や色・質感の多彩さにまず驚かされる。花もカタログで見せてくださったのだが、ティーローズを思わせる個性的な色のものがあった。それだけではない、最近では耐病性が高くなってきていて、初期のころの品種とは違ってきているとのこと。目からうろこなお話ばかりである。
 鉢でコンパクトに育てられ、よく花が咲くアプリコット系の花ということで、薦めてくださったのが、ネットでも有名なメアリーマグダレン。ちょうど蕾つきの元気な株が残っていて、迷わず連れて帰る。イングリッシュローズもこれからはさらに目が離せないと思う。

 今まで、草花と低木と薔薇で構成していた私の庭。以前は、黒点で夏、薔薇が葉を落とし庭が寂しくなるということが大前提で、いろいろな植栽を工夫していた。でも、夏にさほど葉を落とさず薔薇同士の組み合わせで庭を考えるということが案外ラクにできそうだということが分かった今、薔薇がどんどん増えていく。

6月に夫が仕事で訪れた英国では、薔薇にかわってロードデンドロン(西洋しゃくなげ)が庭の主役になりつつあるのだそうだ。薔薇は手がかかりすぎるというのがその理由だとか。西洋しゃくなげは初夏から秋まで3ヶ月は楽しめるのだそうだが・・・。日本では、暑さにも強い薔薇の方が育てやすいのかなとも思う。


最初のバラ」 2003.4.30

 今年初めての薔薇が咲いた。ロサ・オドラータ、原種の早咲きの薔薇。壁の一角を覆う枝一面に短いステムを伸ばし、蕾がついている。薔薇の季節の始まりである。

 この冬から本格的に始めた”土ごと発酵”。薔薇の剪定枝を短く切ってボーダーにマルチングよろしくばら撒き、米ぬかをふって土に返すという試みだ。
 そして、肥料はできるだけ省肥とした。元肥は油粕と骨粉の玉肥えを一株にひとつかみずつばら撒いただけ。追肥として、芽だしのころから、バイオゴールドの元肥をひとつかみほど2リットルのボトルに入れて1週間おいて溶かした液肥をさらに20倍〜30倍程度に薄めてジョーロで毎週散布した。このジョーロには、液肥のほかにも米ぬかを一握りと、木酢液や海のミネラル”にがり”を少しずつ加えて。

 保護液の散布はできるだけひかえるようにしてみた。うどんこは皆無だが、4月半ばを過ぎた頃から、早すぎる黒点がアイスバーグに出た。鉢植えの薔薇にもところどころで出したのを見て、碧露を雨上がりのたびに散布。そして、カニガラペレットとわらの堆肥を取り寄せてマルチングした。黒点の広がりは、今のところ抑えられているよう。葉に黒いしみが出ても、落葉しなくなればOKだ。

 気温が上がってきた4月下旬には、いよいよゾウムシが活動し始めた。ゾウムシが産卵したかもしれないかさかさになってしおれた葉を見つけると、すかさず取ってポケットに入れる。首を垂れた小さな蕾も同様。雨が上がると、ニームオイルやアグリクール、焼酎に漬けたトウガラシのエキスを撒く。休日の今日は、ざっと 10匹以上のゾウムシをテデトールした。

 芋虫やアブラムシは、庭にやってくる天敵たちの活躍ですっかりおとなしい。ときおり見かけるアブラムシの小さなコロニーも、安心して見ていられる。アブラムシの天敵、ヒラタアブのさなぎを庭のあちらこちらに見つけた。私の庭で育った第二世代の登場も、もうすぐだ。

 先日、横浜の薔薇のサークルから講演を依頼された。テーマは、「化学農薬に頼らないバラづくり」について。かれこれ10年近く試行錯誤し続けてきた私の庭づくりについて、自分なりに振り返り意味付けをすると言う意味で、とてもよい機会を頂いたと思う。
 
 化学農薬に頼らない庭づくりは、小さな生態系を作ることであり、庭から学びつづけることであり、年単位での挑戦だ。
 微生物も含めた豊かな生物層に恵まれた庭では、ひとつの害虫や病気が蔓延するということは少ない。そのためには、まずは、土作りから始めるということ。そしてその土作りとは、微生物や小動物が活発に活動する生きた土を作ること。だから、微生物やみみずの餌となる生ごみ堆肥や米ぬかを積極的に撒く。剪定枝を使った土ごと発酵も、結果的に微生物を増やす。
 化学農薬に頼らなくなると、庭にたくさんの生き物たちが訪れるようになる。小鳥や、虫たちとの生活はとても楽しい。それが、化学農薬に頼らない庭の一番素敵なところなのだ。そんな生活を続けていくうちに、自分自身の考え方が少しずつ変わっていっているのに気づく。庭という小さな自然が、これからの私達の生き方を示してくれているような気がしてくる。

 そんなことを短い時間の中で語ろうと思った。集まってくださった20名あまりの方々はとても素敵な方々だった。HP上だけでなく、直接お会いして、伝えようとすることの大切さを強く感じた。

 化学農薬を使わないでバラを育てる方法を探りたくて始めた私のホームページ。庭づくりも10年の節目をそろそろ迎えようとするこの時期に、思わぬ出会いを得た。ウェブ上では、オーガニックでバラを育てようとする方々のページがどんどんオープンし、盛んに交流が行われていて。


 休日、一日のんびりと庭で過ごした夕暮れ時、ロサ・オドラータの枝に美しいアゲハチョウが羽を休めている。模様の精緻さに、息を呑む思いで見つめていた。


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