はじめに


なぜ、一般には困難といわれる
無農薬での薔薇作りにわたしがこだわり試行錯誤を続けているのか、
その理由についてお話します。


 私が薔薇を育て始めて間もないころ、茎にびっしりたかるアブラムシに閉口し、オルトラン粒剤を株元に撒いたことがあります。まだ庭に1本しか薔薇がなかったころのことです。ただ、その他の消毒はいっさいせず、それでも薔薇は大きな赤い花を繰り返し咲かせてくれました。家族と食べるものはいつも気を使い、オーガニックといわれているものを宅配してもらう生活を結婚以来続けていたものですから、アブラムシ退治に使うオルトランさえ、気がとがめたものです。なんとか、農薬なしで庭を維持し、そして薔薇を育てることができないものだろうか。そんな思いが高まっていたとき出会ったのがビズ誌の「薔薇の園を夢見て」という特集記事です。この記事との出会いが私の庭での薔薇選び、そしてオーガニックにこだわった薔薇作りという方向性を決定付けたのです。

 最初から無農薬栽培がうまくいったわけではありません。完全無農薬として1〜2年目は、木酢液を散布し、肥料さえたくさん施せば花はたっぷり咲いてくれました。でも、3年目以降、ベーサルシュートの伸びが悪くなり、樹の勢いは目に見えて衰えました。おそらく秋以降に黒点病で葉を著しく落としてしまうためでしょう。また連作で土の力が落ちてきていたのかもしれません。そこで始めたのが、生ごみ堆肥。これは、梶みゆきさんの著書「オールドローズガーデン」の記事からヒントを得たものです。堆肥作りの参考書も購入してなんとか出来上がった堆肥を、最初は恐る恐るパンジーのコンテナに施してみました。すると今まであれほど悩まされていたアブラムシがつかなくなり、株も大きく育ちます。そこで、薔薇のボーダーに早速応用してみました。結果は良好、何を植えても丈夫に大きく育ち、新しいシュートも出るようになりました。

 無農薬栽培を続けていると、たくさんの生き物が庭を棲家とするようになりました。害虫も益虫の餌、害虫がいなければ天敵もやってきません。大事なのは、自然を観察し、見極めていく庭主の確かな目であることにやがて気づかされていきます。ちょうどそんな思いでいたとき、掲示板を通してたくさんの方々と交流するうちにできあがっていったのが虫のページです。(このページは、私のサイトの宝物だと思っています。)子どものころ、虫が怖くて手掴みできなかった私が、今や図鑑を片手に虫たちの生態の観察に余念が無いなんて…無農薬の庭からの大きな贈り物です。

 シジュウカラは、子育ての間に一日300匹もの蛾の幼虫などを運んでくるのだそうです。1年間だと12万5000匹もの蛾の幼虫を食べているという報告もあるとか。シジュウカラは、虫の大発生を抑えてくれているのです。無農薬で庭を維持するようになった当初は、たくさんのイモムシ達に春から秋まで悩まされました。でも、3年経ち、5年経ちとするうちにだんだんイモムシ達の被害は減っていきました。いつのまにかうちのイモムシ達は、庭を訪れる小鳥や蜂たちのご馳走となっていたのです。そしてこのことを通して庭とこの地域の生態系が見事にリンクしていることに気づいて。小鳥達へのせめてもの恩返しにと毎年巣箱の掃除をし、冬には餌場を設けています。

 土の中にもたくさんの生き物が棲んでいます。ミミズは、土を耕し肥やします。そして目に見えない微生物達こそが実は庭の隠れた主役。生ごみ堆肥を撒いて植物が大きく育つようになったのは、この土の中の微生物の活動が堆肥の養分を得て活発になったせいもあったのです。その微生物をさらに元気付けてくれるのが米ぬか。この安価で身近な資材は生ごみ堆肥との相乗効果で劇的に土をよくしてくれました。生きた元気な土には余分な肥料もいりません。そしてその生きた土は高価な資材を使わなくても、毎日の生活で出る生ごみと米ぬかで作り出すことができるのです。

 無農薬栽培にこだわることを通して、庭は私にたくさんのことを教えてくれました。自然と人とが調和して生きていくためにはどうしたらいいか、それは現代に生きる私達にとって大きな課題です。その答えを無農薬の庭は示してくれているように思います。庭や生活の中で”オーガニック”を追求していくことは、自分や家族の健康を守るということだけに留まらず、環境を保全するという大きな課題につながっていくのだということに最近気づきました。ヨーロッパではそういう観点に立って国策としてオーガニックが推進されているとのこと。日本国内でも、合鴨農法など、農業の新しい動きが各地で芽生え広がっています。自然の力を活かした農法が草の根から日本でも広がっていってくれたら…そんな”農”に支えられた食や生活ができたら…私の小さな庭から得た”智慧”が私にそうささやいています。
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